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■雑談001_めんどくさい

 「休みまで、まだ3日もある」

 思わず声が出た。

 風呂を出た後、ソファーに腰を下ろす。携帯は火曜日を表示していた。その火曜日も約1時間で終わろうとしている。

 携帯を横に置き、冷蔵庫へ飲み物を取りに行った。

 今から、見たいテレビ番組があるというわけではない。

 かといって、何か特別なことをしようというわけでもない。

 ただ、唯一の誰にも邪魔をされない『自分の時間』を過ごすため、睡眠時間が多少短くなっても、かならず自分のための、この無駄な時間を作ることにしていた。

 本当は、友人と会って盛り上がるのが健全なんだと思う。

 だが、自分の歳も40付近になると昔のように騒いだりする機会もなく、ストレス発散の場も少なくなってくる。たぶん、一般的なアラフォーのオッサンはそんなもんだろうとあきらめている。

酸いも甘いも知っている40前後。

 周りも同じく歳を取り、お互い家庭を持っている。簡単に遊びに行ける感じじゃあなくなった。

 じゃあ、何をする?

 ここ数年、週末の仕事が終わり、明日が休みだと思うとつい夜更かしをする。やることもないけど、だらだら起きている。起きているといろいろ考えるものだ。

 家に帰って、自分の担当の家事を終えたころには夜中を迎える。だから、すぐに寝るのか?

 何のために、日々過ごしているのかわからなくなる。先に友人と会う約束もない。それどころか、何の予定もない。いや、子供の用事は入っているな。

 それだけである。もちろん子供の用事は最優先だし、大切だ。だが、俺個人としてはどうかなってことばかり考えてしまう。

 ゲームでも、仕事でも慣れるとできるようになる。

 だから、普段の睡眠不足も慣れていた。健康には悪いだろうが、見えない何かに抗うための夜更かしだ。

 俺はとってきた飲み物を2口ほど飲んだ後、テーブルに置き、勢いよくソファーに横になった。

 「明日も仕事か……明日はアレをして、コレもして。あ、ウェブ会議もあったよな。めんどくせぇな」

 「確かにめんどくせぇよねぇ」

 俺は、横に視線を向ける。床に寝転んでいる黒い人影があった。ちょっと半透明。輪郭が揺らめいている。

 「ようっ」と黒い影は手を軽くあげた。

 ……なんだ、コイツ。  オカルト的なアレか?だが、睡眠不足のせいか、寝落ちしてしまったのか、恐怖は感じなかった。

 黒い影はこちらのことを気にしない様子で「確かに、めんどくさいよね。明日の仕事も」と話しかけてきた。

 俺は「ああ、めんどくさい」と返した。

 「じゃあ、明日、仕事行くのやめたら?」

 おお、なるほど。

 ってなるか!

 「無理だろ」

 「なんで?」と黒い影が首を傾げる。

 「なんでって……みんな働いているし、俺が休むと会社に迷惑かかるし」

 「ひとりくらいいなくたって、何とかなるんじゃない?めんどくさいんでしょ?」

 確かにいなくても大丈夫な気がする。

 以前、娘の卒業式、数日後、入学式というスケジュールで、無理をお願いして2日間の有給をとった。中小、いや、小企業はいろいろギリギリなので、有給を取るのも気をつかう。

 翌日、会社に出たが、何の問題なく仕事は回っていた気がする。

 部下からも、俺が休んだために遅延した業務が出たという報告もなかった。いや、出社してきた俺を見て、ため息をついたヤツがいたぞ。

 「だから、大丈夫なんだって。めんどくさいんでしょ。休みたいんでしょ。1日くらい休んでも大丈夫だって」と黒い影が笑う。

 確かにめんどくさい。休みたいのも間違いない。

 だが、なぜだろう。

 さっきまで自分が何度も言っていたはずなのに、この黒い影から出る「めんどくさい」という言葉には苛ついてしまう。

 ああ、そうだ。

若い部下もよく使う言葉。中学生の息子からもよく聞く言葉だからか?

 自分以外の人間が使うと、なぜか苛つく言葉。部下だろうが、息子だろうが、悪気はないんだろうけど、その言葉を使われると苛つく。

 「めんどくさい」という言葉は否定しない。便利な言葉だし、俺も数えきれないくらいお世話になっている言葉だ。だが、便利すぎる言葉なので、息子には、父親としてこう伝えている。

 「めんどくさいという言葉は使ってもよいが、やらない理由にはならないよ」

 そう、宿題をするのがめんどくさいからしなくていいというわけではない。仕事がめんどくさいからしなくてもいいという道理は通らない。大人だろうが、子供だろうが同じだ。

 めんどくさくても、やることが当たり前なのだから、やるべきである。

 この影にも教えてやろう。

 「あのな、めんどくさいという言葉は使ってもいい。だが、それは理由にならないんだ。確かに、明日の仕事行くのが億劫だ。めんどくさいと感じてしまう。だからといって、俺が仕事を行かないという判断にはならないんだよ」

 寝転んでいた黒い影が体を起こし、あぐらを組んだ。

 「なるほど。いい言葉だね。確かにその通りだと思うよ」

 黒い影は、何度も頭と思われるところを何度か振った。

 表情は見えない。半透明で透き通っているため、影の向こうにある絨毯しか見えない。

 だが、その影の様子から納得してくれているように見える。

 黒い影がこちらのほうに顔を向ける。

 「でもさぁ。この小説書くのも、めんどくさいって思ってるんじゃない?」

公開日:2023/09/17
更新日:2024/08/14

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