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■雑談004_時間短縮

 「時短?裏技?」

 「うわっ」と思わず声をあげた。

 俺の顔のすぐ横に、いつのまにか黒い影の顔と思われるものがあった。ソファーに深く座り、ひざの上で操作するノートパソコンを黒い影が横から覗き込んでいたのだ。

 「おい、急に出てくるなよ」と影をにらむ。が、俺の言葉なんか聞いちゃいない。

 「んー。主婦のための家事の裏技まとめ、サクサク時短使える家事の裏技、お洗濯の時短裏技集……どうした?とうとう嫁にこき使われ始めたか」

 「いや、それは前からだから……」

 「あ、そうだねぇ。じゃあ、なんで?家事に目覚めた?主婦王にでもなるのか」

 「なんだよ、主婦王って……違うよ。自分の時間がもっと欲しくてさ。よく言うだろ。『時間は作るもの』ってさ」

 「なるほど。で、家事の時間を何とかしたいって感じなのか」

 「いや。時短、裏技のキーワードで検索したら、家事のことばっかり出てきたんだよ」

 「あ、じゃあ、モニターを覗くタイミングが悪かったのか」

 「そういうこと。だけど、家事の時間を減らす努力って発想はなかったなぁ」

 俺は、検索結果の1番上にあるリンクをクリックした。

 いわゆる『まとめサイト』だった。この類のサイトは、きれいにまとめられていて、わかりやすく便利なのだが……この手のサイトは、かゆいところに手が届かないという印象だ。見出しだけをさらりと目を走らせた。その後も、検索結果の2番目、3番目とクリックしていった。

 「なあ、なんかいい方法知らないか?」

 俺は、ノートパソコンから視線を外して、黒い影の方を見た。黒い影は、床に寝転びクロール……いや、背泳か?泳ぐような動きをしているが、半透明で輪郭が揺らめいているので、うつ伏せなのか、仰向けなのか分かるはずがない。

 声をかけられた黒い影は、動かしていた手足を止める。

 「え、呼んだ?」

 「だから、なんか時短の方法って知らないか?」

 「ああ……そのことね」と言いながら、黒い影は体を起こし、あぐらを組んだ。

 「時短の方法ねぇ。画期的なものはわからないけど、でも基本的な事であれば。でも、キミも知っていると思うよ」

 「俺が?」

 「うん。だってさ、当たり前のことだよ。大きく分けて3つ」

 黒い影が指を3本立てているように見える。指先の影が揺らいでいて、2本にも4本にも見える。

 「まず1つは、健康管理に気をつける。家事でも仕事でも疲れていたり、睡眠不足だったりするだと、集中力がないし、はかどらない。お腹がへっていればイライラもする。風邪なんてもってのほかだよね。体調が悪いと作業の効率が悪いどころか、動けないからね」

 「そりゃあそうだ」

 俺は頭痛持ち。そのうえ、痛みに弱い。だから常に頭痛薬は常備している。出かける時も1回分は持っていないと不安になる。

 「で、2つ目。道具を使う、もしくは工夫する。さっき見ていた時短関連サイトにもあったと思うけど、新しく道具を購入とか、『各ご家庭にあるこの道具を~』みたいな感じで使い方を工夫するとか……普段の家事だと掃除機を高機能なもの買い替える、食洗器を設置する。料理だと、今では当たり前だけど、レンジで加熱して下ごしらえをして、最後だけなべで仕上げるとか。仕事だとそうだなぁ……新しいソフトを使うとか、メール文面を作る時にはあらかじめテンプレートを作っておくとかかな。どのシーンでも、新しい道具を検討するか、手元にあるものの使い方を工夫しているって感じになるだろ?」

 料理センスのかけらもない俺には、料理の時短はわからないが、家電や仕事の方は理解できる。メールでやり取りをすることは、比較的多いほうだと思う。俺はメール冒頭の名乗りと『お世話になります』くらいの文面の出だし、最後の自分を記す署名は基本的に変わらないので、テキストファイルにしてデスクトップに置いている。メールを送る時には、そのテキストファイルをコピペする。時短というより、めんどくさくって。

 「最後は、妨げになるものを排除すること。最近でいうとソーシャルメディア、SNSことだな。あれはダメだ。つい開いちゃうよね。オレもつい開いちゃう。あれってもう習慣というか、癖になっているよね、アプリをタップすること自体が。ちょっとと思っているけど、積み重ねるとまあまあな時間を浪費しているよ。それに、記事のチェックやコメントなんかしちゃうと、これまでの集中力とやる気が完全に切れちゃうから、できることならしないほうがいいい。と言いつつ、オレは1日1更新を目標に楽しんじゃっているから『やめろ』とは絶対に言えないんだけどね」

 おっしゃる通り。ついスマホを触ってしまう。無意識のうちに、SNSを開いている。

 ただ……

 「ほんとに、基本的だな」

 つい言ってしまった。教えてもらっておきながら……

 黒い影は気にした様子もなく、「でしょ」と頷いた。

 「だけど、これが本質だと思うよ。時短をするとか、時間を作るとかって言われているけど、結局は、『効率的にする』と『無駄を省く』こと。それは次第で、『自分の時間』だっけ。それも作れんじゃないかな」

「なるほどね……」

 俺は膝の上のパソコンに視線を落とす。マウスポインターを動かしている時に、黒い影が口を開く。

 「ねえ。1つ聞いてもいい?時短、時短って言っているけど、時間の短縮をしてできた『自分の時間』で何するの?」

 俺は、カーソルを動かす指が思わず止まった。

 マウスポインターが、動画サイトのアイコンの上で停止していた。

公開日:2023/10/01
更新日:2024/08/14